2012年10月6日土曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 15
「はい、じつは、冬が来る前に一家中の服の色を、少しずつかえなければなりません。
だから、ドンタくんにお願いがあるんです。
この先のつり橋を渡ったところに、白いヒゲをのばした、かりの名人がすんでいるでしょう。
てっぽうをかついだ、かりのじいさんに会っても、
私たち一家に会ったことはないしょにしてください。
そうでないと、ズドンとやられてしまいますから、子どもづれなのできがきでないんです。
雪がつもるまでいちばん目だちますから、お願いしましたよ。ドンタくん。」
といいのこして、野ウサギ一家は、ぴょこん、ぴょこん、ぴょこんと三段とびのようにして、
スギの木とスギの木の間を通って、どこかに行ってしまいました。
そうか、この先にかりのじいさんがすんでいるのか、どんなじいさんなのか、
不思議になって、ドンタは早くあってみたくなり、ぐんぐん山道をかけあしでおりていきました。
――おっと、こりゃ、あぶない――。ドンタは急ぎすぎて、小石につまづいてしまいました。
――おお、いてえ――。目から火が出るほど痛かったので、
ドンタは大きな声をはりあげてしまいました。
2012年10月3日水曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 14
「それはこまったね、早く土の中に入らないと風邪をひいいてしまうよ。
ほら、カエデさんだって、モミジさんだって、みんな赤い葉を落として、
ねむりに入っているよ。」
ドンタはつけくわえました。
「はい、はい、よくわかりました。
がんばって、大きい穴をさがして入ることにしますよ。」
といいのこして、のそ、のそとかれ葉の中にもぐって行きました。
三十分ほどあるいて行くと、広い、広いぼく草地に出ました。
ドンタは、おなかがすいてきたので、今朝おかあさんが心をこめて作ってくれたおにぎりを、
ここで食べることにしました。
ホウノキの葉につつんだおにぎりは、おかあさんの香りがして、
ほっぺがおちるほどおいしい味がしました。
むしゃむしゃ、むちゅうで食べたせいかおなかがいっぱいになり、ねそべって、
高い高い空をみあげながら、白い雲の流れをずーっとみつめていると、
秋空の雲の形が里の大木や、姉さんの顔や、いわなみや、きのこや、
ドングリ山のような形がいくつもいくつも流れてきて、ロマンチックな気分になりました。
と、かすかに足もとで、だれかがささやく声がしました。
なんだろうと、みわたしてみると野ウサギさん一家でした。
「どうしたの、そんな小さな声で・・・・・・。野ウサギさん。」
とドンタは声をかけました。
2012年9月30日日曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 13
次の朝、ドンタは里にお姉さんをたずねる旅に出ることになりました。
おかあさんは、ドンタにおむすびを作って、せなかにくくりつけてくれました。
「たびの途中、いろいろなことがあろうが、男の子なのだから、
がんばって行くのだぞ――。」
とおとうさんとおかあさんは、ドンタをはげましました。
「いってきます。」
元気のいい声で、ドングリ山の家をあとにしました。
もう、ルンルン気分です。
すこしさか道をくだった、ナラの木の下で、カサ、カサと音がしました。
いったいなんだろうと、ドンタはジーッとみていると、なんと、なんと、
大きいからだをした、青ダイショウくんでした。
「どうしたの、もうすぐ雪がふってくるのに、まだ、青ダイショウくんは、
土の中に入らないのかね。」
「はい、じつは私もそう思ったのですが、からだが長くて、大きいものだから、
なかなかいい穴がみつかりませんので。」
と、ぼそぼそ声で、青ダイショウくんはいいました。
2012年9月27日木曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 12
ある晴れた、秋も終わりに近い日。
ドンタ一家に、キツツキくんが手紙を運んできてくれたのです。
「ドンタ、元気ですか、山はもうすぐ白い粉雪が降る日も近いでしょう。
お姉さんのすんでいる里は、まだ、まだ、あったかいです。
雪が降る前に、ドンタも一度里に来てみませんか。」
と書いてあったのです。
ふっと、ドンタはおよめに行ったお姉さんに会いたくなりました。
「おとうさん、おかあさん、ぼく、里に行ってもいいですか。」
すると、おとうさんはしばらく黙っていましたが、
「そうだねえ。里までは長い長い旅だけど、ドンタも一人前の男の子だから、
旅をさせるのもよかろうな――かあさん。」
「ほんとなら、三人で行きたいのだけど、おとうさんとここに残らねば、
来年、このドングリ林がさびしくなるでしょ。」
とおかあさんは、一人ごとをいっていました。
2012年9月24日月曜日
2012年9月21日金曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 10
「少しは静かにしなさい。」
おかあさんの声が聞こえました。
さきほど小人さんと長い間、オシャベリしたので、つかれました。
おかあさんのこもり歌で少しおやすみです。
何ヶ月かすぎたある日、
あゆちゃんは、おかあさんのおなかから生まれてきました。
目が大きくて、まつげが長くて、オチョボ口で、
よく聞こえる耳と、太いまゆ、みんな小人さんのプレゼントです。
きらいだった低いはなは、なぜか、だいすきになりました。
それは、あゆちゃんをうんでくれたおかあさんのはなに、そっくりだったからです。
あゆちゃんは、やっぱりかわいいふつうの女の子でした。
2012年9月18日火曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 9
「小人さん、おねがいがあります。
おはなはやっぱり、おかあさんからもらったまんまにしたいのです。」
「そうですね、あゆちゃんのいう通りにしましょう。」
と小人さんがいってくれました。
「あら、あら、もうこんな時間になったのね。十時までに帰らないと、
頭の白い羽根が赤く変わってしまいますから。」
と不思議なことばを残して、小人さんはスーッと、さっき入ってきた、
おかあさんのおへそから出て行ってしまいました。
小人さんは、黄色い手かがみを忘れていきました。手かがみで、そっと、そっと、
自分の顔をのぞいてみると、あら、おはながとても低くって、丸いのに気がつきました。
やっぱり高い方がよかったなあ、と思うと急に涙が出てきました。
くやしくって、くやしくって、おかあさんのおなかを、足で、バタ、バタ、
けりながら大声で泣き出しました。
おかあさんは、あまりの痛さにビックリしました。
2012年9月15日土曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 8
「あれ、小人さん、お口はもっと大きい方がよかったのに。」
とあゆちゃんがいうと、
「わがままいってはいけません。
あゆちゃんがステキなレディーになるように小さな口にしてあげたのです。」
と小人さんはいいました。
パッチリ目に、長いまつげ、黒いまゆ、それにお口もついたし、
よく聞こえる耳もつけてもらったので、早く自分の顔がみたくなり、
鏡をかしてくださいといいました。
すると小人さんは、
「まってください。まだ残っているものがありますよ。一番大事なおはながついておりません。
おはなは高い方がいいですか、ひくい方がいいですか。」
ゆうべ、おかあさんとおとうさんが、『生まれてくる子は、おはなが高いといいわね。』
という話をしていたので、
「小人さん、うんと高いのにしてください。」
とあゆちゃんはいいました。
「はい、よくわかりました。」
小人さんが高いはなをつけてくれようとしたとき、あゆちゃんの心が変わりました。
2012年9月12日水曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 7
と、おかあさんが友達と話をしていたのをおぼえていたので、
小人さんにすぐ返事が出来たのです。
「この目は本当に、よく、どんなものでも、美しく見えますから。」
と小人さんは一人ごとをいってつけてくれました。
「では、目の上につける、まつげはどうしましょうか。
長い方がいいですか、短い方がいいですか。」
ちょっと、あゆちゃんはこまりました。しばらく、考えこんで、そうだ、
せっかくの大きい目に短いまつげだと風が吹いて目にゴミが入ったときこまるので、
長いまつげにしてもらうことにしました。
小人さんは長い長いまつげを、チョッキン、チョッキン、ハサミで切ってつけてくれました。
「さあ、さあ、次に進みましょうか。」
小人さんは、胸にさげたペンダントの時計を少し気にしながら、
「お口はどうしましょうか。」
と聞きました。
お口がないと、おかあさんのようにピンクの口紅もつけられないし、
おいしいものも食べられません。
それに、だいすきなオシャベリもできません。
「小人さん、うんとかわいい口にしてください。」
といいました。
2012年9月9日日曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 6
とやさしくつけてくれました。
まゆげってどんなものなのかそっと、あゆちゃんは両手でふれてみました。
少しゴソゴソしてへんなきもちです。でもチョッピリ、あんしんもしました。
「それから、それから、お耳はどうしますか。」
そうだ、どんな遠くの音でも、やさしいおかあさんの声でもききとれますように、
「よくきこえる大きい耳にしてください。」
小人さんは、そんなあゆちゃんの心のなかまで分かったのか、笑顔で、
「はい、はい、わかりました。この耳はとてもりっぱで、
どんな音でもきこえます。ロバの耳よりりっぱです。」
といってつけてくれました。
あゆちゃんは、ロバの耳のお話は、
おかあさんがいつも読んでくれる本でよくしっていました。とてもうれしくなりました。
「次に目はどうしましょうか。」
と小人さんが聞きました。
「はい、パッチリ大きい目にしてください。」
と、いいました。
「目の大きい子が生まれてくるように願ってますのよ。」
2012年9月6日木曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 5
「でもね小人さん、あゆちゃんはおかあさんからいいところだけいただいて、
お顔はできているのでいりません。」
「それはすばらしいですね。でもおかあさんよりもっともっと、
ステキなお顔に作ってさしあげましょう。」
あゆちゃんは『ステキなお顔』といわれたので、
どうしたらよいのかしばらく考えこんでいました。
「さあ、さあ、あゆちゃん。
お風邪をひくといけませんから早くお顔作りにかかりましょうね。
一番目はまゆげにしましょうか。まゆげは黒くて太いのがいいですか、
それともうすくて細いのがいいですか。」
あゆちゃんは、まゆげってなんだろう。あった方がいいのかな、
ない方がいいのかな、とまよっていました。
そうだ、おかあさんに聞いてみようと思いました。
トン、トン、トン。おかあさんのおなかをノックしたのに返事がありません。
おかあさんは、さきほどおいしいケーキを食べたあとなので、
スヤ、スヤ、きもちよさそうにおひるね中でした。
あゆちゃんはこまったなあと思いました。
すると小人さんは、
「おまかせください。やっぱり黒くて太いまゆにしましょう。」
2012年9月3日月曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 4
ふわふわあったか、おかあさんのおなかの中で、
あゆちゃんはおねむりしていました。
「ごめんください、ごめんください。」
という声がして、おかあさんのおへそから、
頭に白い羽根をつけたかわいい小人さんが入ってきました。
きれいな手カゴの中にはたくさんのお顔の道具が入れてありました。
あゆちゃんは、ビックリして目がさめました。
「あなたはどなたですか。」
「はい、私は美しい花園から女王様のお使いでやってまいりました。
少しもあやしいものではありませんよ。
おかあさんのおなかの中でおりこうにしている良い子のために、
ステキなお顔のプレゼントをもって、流れ星にのってやってきました。」
と小人さんはキラ、キラ、光る美しい目であゆちゃんに語りかけたのです。
2012年8月30日木曜日
2012年8月27日月曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 2
序文 團 伊玖磨
「あゆちゃんのお顔」へのお祝い
團 伊玖磨
柴俊子(しば・としこ)さんの可愛い本が世の中に出ることを心から喜びます。
忙しいお仕事の中で、こんなに丹念に優しい子供たちへの愛に満ちたものがたりを考え、
そして書き続けている女性が山形に居る事自体、その事が、何度も山形に杖を曳いて、
その街並み、緑の山並み、空を行く雲を美しいと見上げていた僕に、
益々山形を好きにさせました。
柴さんに文の大切さを教え、
心の美しさと大切さを教えた先生である詩人の清田美伯さんが本作りをなさる事も
美しいことだと思います。
どうか、今回だけでなく、二冊目、三冊目と、
きっともっと沢山の可愛い美しい作が生まれますように、
今大切な事は、子供たちへの優しい語りかけなのですから、
子供たちを思う多くの親、多くの人たちに代わって、
柴さんにお願いしたいと思います。
もう二ヶ月か三ヶ月もすると、山形はそろそろ雪支度でしょう。
お母様方、お姉様方、この本の三つのものがたりをお子さんに読んで上げて下さい。
お父様方も、お兄様方も。
おじい様、おばあ様はお孫さんに―。
そして、春が来、夏が来、又秋が、冬が巡って来るいつまでも、
この本が小さな子供達の心に優しさと、愛をそそぐ泉になることを信じます。
一九八六年九月 三浦半島海岸で。
2012年8月24日金曜日
絵本『あゆちゃんのお顔』より 1
あゆちゃんのお顔
絵・文 柴 俊子
あうん社
※これから数十回にわたって、絵本『あゆちゃんのお顔』をご紹介したいと思います。
この絵本は子供向けの内容となっているため、ひらがなを多用しております。
極力原文のままご紹介したいと思っておりますが、一部、段落など、
読みやすいように校正している部分がございます。
何卒、ご了承下さい。
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